Дама с Рилаккумой

または私は如何にして心配するのを止めてリラックマを愛するようになったか

2016年に観た映画ベストテン

2016年に観た映画ベスト10。

邦画
1・小津安二郎秋日和』(1960)
2・小津安二郎彼岸花』(1958)
3・小津安二郎『一人息子』(1936)
4・小津安二郎秋刀魚の味』(1962)
5・小津安二郎麦秋』(1951)
6・小津安二郎『晩春』(1949)
7・小津安二郎『東京の合唱』(1931)
8・小津安二郎『お茶漬の味』(1952)
9・周防正行Shall We ダンス?』(1994)
10・山中貞雄丹下左膳餘話 百萬兩の壷』(1935)

洋画
1・ルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』(伊=仏、1971)
2・ジャン=リュック・ゴダール『映画史』(仏、1988〜98)
3・アルフレッド・ヒッチコック北北西に進路を取れ』(米、1959)
4・アルフレッド・ヒッチコック『めまい』(米、1958)
5・アルフレッド・ヒッチコック『サイコ』(米、1960)
6・アルフレッド・ヒッチコック『裏窓』(米、1954)
7・アルフレッド・ヒッチコック『三十九夜』(英、1935)
8・クエンティン・タランティーノイングロリアス・バスターズ』(米=独、2009)
9・ジム・ジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイス』(米、1984
10・フランソワ・トリュフォー華氏451』(英、1966)

1・小津安二郎秋日和』(1960)
 小津のカラー作品はわずかに6作品しかないが、どれもみな独特の渋さと華やかさを誇っている。大学の同級生の三回忌に集まった佐分利信中村伸郎・北竜二の三人は、未亡人(原節子)の再婚話と娘(司葉子)の縁談を進めようと画策するが、男だけで考えていた計画は誤解を生んで段々話がこじれていく。最終的には収まるところに収まる「間違いの喜劇」であり、小津の作品の中でもホモソーシャルな雰囲気の強い作品である。女将に対して、同級生の未亡人は「本郷三丁目の薬屋の娘」で評判だった、と語って自分たちが東大卒であることをさりげなくアピールしているところが特に、男性社会のいやらしさに溢れている。

2・小津安二郎彼岸花』(1958)
 家に置かれている赤いやかんが印象的な小津初のカラー作品。長女(有馬稲子)の縁談を考え始めていた平山(佐分利信)は、長女が恋愛結婚するつもりであることを唐突に知る。母(田中絹代)や次女(桑野みゆき)も長女の恋愛に薄々勘付いていたようだったが、全く気づかなかった父は不機嫌になって娘の恋愛結婚を認めない。その一方で、平山は会社の同僚(笠智衆)からの、娘(久我美子)の恋愛結婚を受け入れられないという相談に対しては、娘さんの気持ちを考えてやらないといけないよ、と諭している。このような論理的な破綻に開き直りながら駄々をこねていた父親であったが、最終的には長女の恋愛結婚を認めることになる。見合い結婚から恋愛結婚への移行期の軋轢を描く。
 
3・小津安二郎『一人息子』(1936)
 小津映画はカラー移行も遅かったが、無声映画からトーキーへの移行も非常に遅く、劇映画としては『一人息子』が初めてのトーキーとなる。
 信州の製糸工場で働く母(飯田蝶子)は、頑張って息子(佐野周二)を上の学校へ行かせていた。東京に住んでいる息子のところへ遊びにきた母は、東京での息子の貧しい生活を知って失望を禁じ得ない。
 『一人息子』のテーマを深化させたのが戦後の『東京物語』(1953)である。
 
4・小津安二郎秋刀魚の味』(1962)
 1963年に小津は咽頭癌の治療に入り、60歳の誕生日でもある12月12日に亡くなった。期せずして遺作となった『秋刀魚の味』には老醜の影が忍び寄っている。妻を亡くしていた平山(笠智衆)は、娘(岩下志麻)の結婚話を進める。その結婚話を急ぐきっかけとなったのが、ラーメン屋になった老漢文教師(東野英治郎)の手伝いのため婚期を逃した娘(杉村春子)の悲嘆を知ったことであった。
 重要な場面で懐古的に挿入される「軍艦マーチ」が、時代から取り残されつつあることに気づいている戦時世代の寂しさを象徴している。

5・小津安二郎麦秋』(1951)
 いわゆる「紀子三部作」の第二部。婚期を逃しそうな紀子(原節子)の縁談をめぐって一家が奔走する。紀子の結婚は同時に大家族の解体も意味している。

6・小津安二郎『晩春』(1949)
 「紀子三部作」の第一部。婚期を逃しそうな紀子(原節子)の縁談を巡って、妻に先立たれた平山(笠智衆)が奔走する。小津作品初の原節子出演作で、戦後小津が執拗に描いた娘の結婚騒動の原点となった作品である。

7・小津安二郎『東京の合唱(コーラス)』(1931)
 とある社員の不当解雇に異議を唱えた岡島(岡田時彦)は自分も会社を馘になってしまう。不況下で職は見つからず、やっと見つけた職は、学生時代に授業をサボっていた元体育教師(齋藤達雄)の始めたカレー屋の手伝いであった。ブルジョワ化した戦後の小津とは少し違う、不況に喘ぐ人々の哀歓を描くサイレント時代の秀作。

8・小津安二郎『お茶漬の味』(1952)
 元々は日中戦争時の「彼氏南京へ行く」というシナリオであったが、検閲にひっかかって流れた。その話を戦後、ウルグアイへ飛ばされることになった会社員の夫が、不仲だった妻とわかり合えるようになった、という話に変えた。そのため作品の強さが損なわれてしまったとされるが、それでもなお、お互いを理解し合えない夫婦生活の残酷さが空恐ろしい。

9・周防正行Shall We ダンス?』(1994)
 ふとしたきっかけで社交ダンスにのめり込んでいく会社員(役所広司)を描く。日本社会における社交ダンスへの偏見、競技ダンス側からの軽視などをコミカルに活かした。

10山中貞雄丹下左膳餘話 百萬兩の壷』(1935)
 小津安二郎に期待されていた天才監督山中貞雄は28歳という若さで日中戦争出兵中に病死した。現存する作品も、これ以外に『河内山宗俊』『人情紙風船』しかない。
 ガラクタだと思って売ってしまった壷が大変な価値のあることがわかって、武士たちが大騒ぎして探しだす。その壷はちょっとした偶然から、剣豪丹下左膳大河内傳次郎)の居候している矢場に置かれていたのである。緻密なプロットと、スピーディーでユーモラスなシーン展開でその顚末が語られる。

洋画
1・ルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』(伊=仏、1971)
 原作はトーマス・マン。保養地ヴェネツィアにきていたドイツの音楽家(ダーク・ボガード)は、ポーランド人の美少年(ビョルン・アンドレセン)に魅せられてしまう。グスタフ・マーラーの五番をバックに、完璧な構成を保っている。ビョルン・アンドレセンもいいが、老境にさしかかった芸術家の倦怠感、どうにもしようのない焦燥の演技が特に素晴らしい。

2・ジャン=リュック・ゴダール『映画史』(仏、1988〜98)
 ヌーヴェルヴァーグの旗手による大作。めまぐるしく入れ替わるコラージュ、情報過多という暴力性に圧倒される。

3・アルフレッド・ヒッチコック北北西に進路を取れ』(米、1959)
 ゴダールの『映画史』の中で、ヒッチコックはナポレオンやヒトラーですら果たし得なかった世界の統御を成し遂げた人物として賞讃されている。ヒッチコックが単純なハリウッドの娯楽映画監督というだけではなく芸術性を兼ね備えていることを主張したのがゴダールトリュフォーヌーヴェルヴァーグの面々であるが、『北北西に進路を取れ』に関しては小難しいことなど全く考える必要はない。娯楽性を追窮しすぎたあまりに、全てがヤマ場になってしまった映画である。
 ニューヨークの広告マン(ケイリー・グラント)は突如謎の団体に誘拐される。キャプランというCIA諜報員と間違われているらしく、機密情報を吐くよう脅迫されるが人違いなので吐きようがない。命からがら逃げ出した彼は鍵を握る人物に会いに国連本部へ赴くも、その当人が何者かに刺殺されてしまう。運悪く彼が犯人と間違われ警察に追われる身となり、同時に一人きりでスパイ組織の陰謀を追うことになる。「追われながら追う」というヒッチコックの十八番の集大成である。
 タイトル“North by Northwest”は、『ハムレット』の台詞に由来すると言われている。実際に映画ではノースウェスト航空便で北に向かうという洒落が出てくる。

4・アルフレッド・ヒッチコック『めまい』(米、1958)
 題名は、高所恐怖症の元刑事(ジェームズ・スチュアート)に由来するが、映画の構造自体が観るものにめまいを催させる。陰謀が巧妙に仕掛けられており、真相を知ってもなお虚構への恐怖に戦いてしまう。どれだけ複雑かというと、滅多に記憶違いのない淀川長治さんが『めまい』のとある肝心な部分を勘違いしていて、ヒッチコック本人から「逆です」と訂正され赤っ恥をかいたという話があるくらいである。

5・アルフレッド・ヒッチコック『サイコ』(米、1960)
 バーナード・ハーマンの音楽があまりにも有名。題名からもわかる通り、異常心理ものだが、結末を知っていても、計算されたモンタージュが恐怖心を煽る。

6・アルフレッド・ヒッチコック『裏窓』(米、1954)
 足を怪我していたカメラマン(ジェームズ・スチュアート)は暇つぶしに裏窓から覗き見を楽しんでいたが、あることに気づいてしまう。部屋の中だけにカメラを固定したことで逆にサスペンスが醸し出されている。

7・アルフレッド・ヒッチコック『三十九夜』(英、1935)
 ハネイは、偶然匿った瀕死の諜報員からある警告を教えられる。しかし彼はその諜報員の殺人犯と間違われ、警察に追われるかたわら、一人きりでスパイ組織を追うこととなる。追われながら追い、その過程で恋愛も進むというヒッチコック定番のスタイルの端緒である。

8・クエンティン・タランティーノイングロリアス・バスターズ』(米=独、2009)
 第二次大戦の欧洲戦線におけるアメリカ軍のユダヤ系特殊部隊の暗躍を追う歴史修正主義的態度に貫かれた映画であるが、その代わり映画への厖大な自己言及的態度が面白い。ナチス親衛隊員役のクリストフ・ヴァルツが強烈。

9・ジム・ジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイス』(米、1984
 映画の登場人物が誰もまともにコミュニケーションを取れていない。その様子が哀しくもありユーモラスでもある。

10・フランソワ・トリュフォー華氏451』(英、1966)
 フランス資本による制作を断念し、主演のオスカー・ウェルナーとの対立もあってか、評価はあまり芳しくないが、トリュフォーの書物への愛に溢れている。
 原作はレイ・ブラッドベリで、書物が禁止された近未来の世界での徹底的な焚書を描く。主人公のモンターグ(オスカー・ウェルナー)も焚書官の一人だが、とあるきっかけで書物の世界にのめりこんでしまう。
 本が燃えていく映像が耽美的であり、焚書でありながらもその背徳感を感じてしまう。あまりトリュフォーらしくない映像であるが、撮影監督のニコラス・ローグによるものらしい。