Дама с Рилаккумой

または私は如何にして心配するのを止めてリラックマを愛するようになったか

2025年に読んだ本

去年はトランプ関税に振り回されて全然読めませんでした……。

1・原民喜『夏の花・心願の国』(新潮文庫
2・堀辰雄『燃ゆる頬・聖家族』(新潮文庫
3・ライナー・マリア・リルケリルケ詩集』(新潮文庫
4・司馬遼太郎国盗り物語』(新潮文庫
5・清武英利『後列のひと 無名人の戦後史』(文春文庫)

6・池上彰佐藤優
『黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・抵抗 1867-1945』
『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』
『真説 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』
『真説 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022』
講談社現代新書
7・鹿島茂菊池寛アンド・カンパニー』(文藝春秋
8・伊藤彰彦『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋
9・濱口竜介・野原位・高橋知由『カメラの前で演じること 映画「ハッピーアワー』」テキスト集成』(左右社)
10・ダムロッシュ『ハーバード大学ダムロッシュ教授の世界文学講義』(東京大学出版会


1・原民喜(1905-1951)『夏の花・心願の国』(新潮文庫
原民喜は広島の原爆投下に遭遇し、朝鮮戦争勃発から間も無く中央線で鉄道自殺に至った。極度の無口で生活力も欠けていたというが、触れれば壊れてしまいそうな繊細で美しい散文・詩を短い生涯で遺してきた。
原爆を題材とした作品が多いが、代表作の「夏の花」は、八月四日の亡き妻の墓前に花を供える場面から始まる。小説はその後すぐ原爆の惨状を描くことになるが、冒頭の墓参りのわずかな描写だけでも非常に美しく生死を描いている。
新潮文庫版の編者の大江健三郎は解説で、原民喜は原爆の悲劇を記録するために生まれてきたと述べている。それもまた今となっては事実となってしまっているが、原爆を記録した作品がなかったとしても原民喜の文章の美しさは決して変わらない。人類の歴史は原民喜を原爆作家として固着させてはいけなかったのである。

 

 



2・堀辰雄(1904-1953)『燃ゆる頬・聖家族』(新潮文庫
フランス文学の心理描写の影響を受けた清冽な文体の初期作品群。「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった」という印象的な一文で始まる「聖家族」は、芥川龍之介の自殺をモデルとしている。

 

 

 

3・ライナー・マリア・リルケ(1875-1926)『リルケ詩集』(新潮文庫
ドイツの詩人リルケ原民喜堀辰雄などに強い影響を与えている。繊細な生のふるえを感じる。

 

 

4・司馬遼太郎(1923-1996)『国盗り物語』(新潮文庫
ピカレスクロマンとして面白い。前半の主人公は斎藤道三で、京の油商人から権謀術数で次々と成り上がり、ついには美濃一国を乗っ取って周辺諸国から「マムシ」と恐れられる。
道三は年老いてから、やむなく娘を敵国・尾張織田信長と政略結婚させることになるが、わずかな対面のみで、「うつけ者」と尾張国内で馬鹿にされていた信長の才能を見抜く。道三の軍事的機略と天下統一への野望が、敵国側の娘婿の信長に託される形で、主役が交代する仕掛けも面白い。

 

 

5・清武英利(1950生)『後列のひと 無名人の戦後史』(文春文庫)
著者は渡邉恒雄の球団経営介入を批判して読売巨人軍を解任されたことで有名になったが、読売新聞の社会部で長らく記者を務めており、企業もののノンフィクションに優れたものが多い。本書は「最前列ではなく、後ろの列の目立たぬところで、人や組織をさせる人々」の話を集めており、著者のエッセンスを味わえる。
自主廃業した山一證券の残務処理や住宅金融専門会社不良債権回収などのバブルの後始末をする人々、鹿児島の知覧で特攻隊員を見送った旅館の女将、小説かと見まごうほどに数奇な人工心臓開発の逸話、ロケット開発者・糸川英夫の晩年を支えた愛人、東京電力自前の技術学校卒業直後に原発事故と向かい合った東電の新入社員など、どのエピソードも読ませる。

 

 

 

6・池上彰(1950生)・佐藤優(1960生)
『黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・抵抗 1867-1945』
『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』
『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』
『漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022』
講談社現代新書
日本の左翼運動の歴史をまとめた通俗的解説書。ニューレフトの概観がまとめられた類書は意外と少なく、毎日新聞社から出版された「シリーズ20世紀の記憶」の『1968年 グラフィティ』などは視覚的資料としては充実していたが、本書はさらにニューレフトの派閥や分裂の流れもよくわかる。革命的共産主義者同盟全国委員会中核派)、日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派革マル)など、はたからみれば全部同じような気もするが、微妙な対立のポイントを理解できた。

 

 



7・鹿島茂(1949生)『菊池寛アンド・カンパニー』(文藝春秋
作家の菊池寛と彼の創業した文藝春秋経営を描く評伝。浩瀚文学史的資料も緻密であるが、菊池の経営センスがいかに卓越したものであるかも経営学的に解説されており、他の出版社と比べて特異な文藝春秋の体質の理由がよくわかる。

 

 



8・伊藤彰彦(1960生)『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋
誕生当初の日本映画は国定忠治清水次郎長など幕末の博徒を好んで描き、社会から外れたアウトローや弱者にフォーカスしてきた。その流れは戦後も続き、社会に対するある種の異議申し立てとして機能してきた。ただしその暴力性は手放しで誉められるものではなく、田岡一雄をモデルとした『山口組三代目』などを制作した東映は、制作協力金として山口組に資金提供する形となっていた。
ヤクザ映画の功罪を振り返り、コンプライアンス重視の今日においてなおヤクザ映画を作る意義を問う。

 

 

9・濱口竜介・野原位・高橋知由『カメラの前で演じること 映画「ハッピーアワー』」テキスト集成』(左右社)
商業映画デビュー後、『ドライブ・マイ・カー』などで世界的に知られるようになった濱口監督の現時点での最高傑作の一つは、演技未経験者が演じた「ハッピーアワー」であろう。なぜ未経験者を使い、そして感動を呼ぶ演技となったかが、理論的に解説されている。

 

 



10・デイヴィッド・ダムロッシュ(1953生)『ハーバード大学ダムロッシュ教授の世界文学講義』(東京大学出版会
かつての欧米中心主義が批判される一方、あまりにも厖大になりすぎた世界文学をいかに扱うについて語られる。グローバルな観点からのメジャーな文学の読み直し・比較も面白いが、三島由紀夫との類似が指摘されるタイの作家ククリット・プラモートなど、全く知らなかった文学も出てきて、世界の文学の広さに今更ながら驚かされる。